高齢者や障害を持った方が快適に過ごすための住宅をバリアフリー住宅と呼びます。段差を解消して歩きやすくしたり、手すりを設置してサポートしたりする住宅のことをいいます。
このようなバリアフリー設備は、若いときや健康なときは不要だと思い、導入を見送る方がほとんどでした。
しかし、近年の住宅は長寿命化し、自分たちの高齢化を見据えて、若いうちにバリアフリー住宅を建てる人が増えています。
当記事では、住宅におけるバリアフリーのポイントを場所別に解説していきます。実際に建てられたバリアフリー住宅の事例も紹介しますので、参考にしてください。
キッチンのバリアフリー
キッチンは食事の支度から洗い物まで、一日に何度も立つことになります。使いやすさにこだわり、快適に料理しましょう。
高さ調節できる製品
身長にあっていない高さのキッチンで作業していると、体に負担がかかります。作業台が低いキッチンを使うと、腰や首が曲がり痛くなります。逆に高すぎるキッチンは、ひじや肩が無理な体勢になってしまい、快適に作業ができません。
キッチン天板の最適な高さを計算する方法があります。
身長 ÷ 2 + 5cm = 最適な高さ
例えば身長160cmの方で計算すると
160cm ÷ 2 + 5cm = 85cm
と計算でき、85cmの高さが最適だとわかります。まずはご自分の身長から、キッチン天板の最適な高さを確認しましょう。
ほとんどのキッチンメーカーでは、80cm、85cm、90cmと3種類の高さをラインナップしています。ショールームに行って実際の高さで使い勝手を確認するようにしましょう。
キッチンの高さを調節できる製品も販売されています。介護目的で開発された商品で、スイッチ一つで高さ調節が可能となっています。
使う人にあわせて高さを上下できるため、家族みんなで気持ちよくキッチンを使えますね。
オール電化にする
オール電化住宅にして、ガスコンロではなくIHクッキングヒーター(以下IH)を導入するのもおすすめです。電磁誘導という技術を使って鍋を温めるIHは、直接火が出ないため安全性が高いです。
ガスコンロと違い、うっかりクッキングシートを落としてしまい燃えてしまうといった危険がありません。そのため、高齢者の方や、こどもが料理をする際も安心ですね。
また、天板がフラットでお掃除しやすいのもうれしいポイントです。ガラス製の天板は、少しの吹きこぼれならサッと拭くだけできれいになります。
しつこい汚れは洗剤を染み込ませてから掃除すれば、手間がかかりません。後片付けの時短になりますし、いつも清潔に保つことができますね。
お風呂のバリアフリー
お風呂は洗面所から洗い場、洗い場から浴槽と段差が多く、転倒事故が発生しやすい場所です。また、寒暖差による体への負担も見過ごせないポイントです。
手すり
手すりを設置すると、ひざや腰の悪い人でも、快適に入浴することができます。洗面所から浴室への出入り、浴槽をまたぐとき、浴槽からの立ち上がるときに手すりを設置しましょう。
後から付けようとすると、壁の補強などが必要となり工事費が高額になります。ユニットバスを組み立てるとき一緒に付けておくとよいでしょう。
出入口
出典:https://www.komatsu-co.com/kodawari_BF.html
昔のタイル張り浴室や、古いユニットバスは、洗面所と浴室に段差があり、転倒事故につながる恐れがあります。
最新のユニットバスは段差がなくフラットに作られており、転んでしまう心配がありません。扉の近くに手すりを設置することで、さらに転びづらくすることができます。
床材
出典:https://jp.toto.com/products/ud/bath/
昔の浴室で使われるタイル張りの床は、濡れると滑るため転倒しやすいものでした。最新のユニットバスに使われる床材は、滑りにくく工夫されています。
水はけをよくすることで、カビやぬめりの発生を抑え滑りません。また表面に微妙な凸凹加工を施すことで、濡れていても滑りづらくなっています。
浴槽の深さ
出典:https://jp.toto.com/products/ud/bath/
浴槽をまたぐ動作は、高く足を上げることになりひざや腰に負担がかかります。転倒事故も多く発生しており、気を付けたいポイントです。
昔の浴槽は深さが60cm前後と深いものが主流で、またぐのも大変でした。現在のユニットバスでは浴槽深さが50cm前後と浅くなっていて、入浴しやすく作られています。
入浴に手助けが必要な方が、安全に入浴するための設備もあります。電動で昇降するシートに腰かけて入浴でき、浴槽をまたぐ必要がありません。
介助する方の負担も少なくなります。介護保険が適用される場合もありますので、積極的に利用しましょう。
介護用品
出典:https://jp.toto.com/products/ud/bath/
自力で入浴できない方が座ったまま入浴できる、介護用品もあります。
水回り専用の車いすなので、水にぬれても問題ありません。座ったままシャワーを浴びることができます。狭い浴室内で座り直す必要がないため、安全で快適に入浴出来ます。
脱衣所との寒暖差
出典:https://gafpsp.org/?p=644
冬場に暖かい場所と寒い場所を行き来すると、急激な温度変化で体に負担がかかります。この現象をヒートショックと呼びます。ヒートショックによる死者数は年間一万人以上で、無視できる数字ではありません。
寒いときに入浴すると、寒い脱衣所と浴室で血管が縮み、血圧が上がります。寒いからといきなり浴槽に浸かると急激に血圧が下がり、心臓や血管に負担がかかります。
ヒートショックを防ぐために洗面所、浴室内に暖房をつけて、空気を温めておきましょう。寒暖差をなくすことが一番の解決方法です。
浴室、洗面所専用の暖房機が販売されています。壁付けタイプや浴室換気扇と一体になったタイプがあり、場所を取りません。
家を建てるときに設計しておけば、電源工事が簡単に済みますし、配線を壁裏に隠すことができます。
トイレのバリアフリー
狭い空間で便座に立ち座りをするのは、意外と負担がかかる動作です。また狭い空間のため、開口部や配置など工夫する必要があります。
手すり
便座での立ち座りは、自分で思っているよりもひざや腰に負担がかかるものです。公共施設のトイレでも、手すりを設置していることが多くなりましたね。
家を建てた後で設置すると、壁の下地工事など余計な費用が発生します。まだ若いからと後回しにせず、設計時にプランに盛り込んでおきましょう。
材料費と少しの工事代金で設置することができます。
トイレの手すりはL型に設置するのがいいでしょう。体の向きを変えて腰掛けるときは縦部分を、便座から立ち上がるときは横型を持つとスムーズです。
出入口
トイレなど狭い空間では、普通の開きドアだと開閉の際に立ち位置を変える必要があります。足腰の弱い方は、よろけてしまい危険です。
ドアが2つに折れる折戸タイプなら、立ち位置を変える必要がありません。またドア本体がコンパクトになるため、介助が必要な場合でも邪魔になりませんね。
便座
立ち座りをサポートするために、便座に工夫をしたバリアフリー設備もあります。前述した手すりを設置しても立ち上がるのが難しい方は、電動リフト便座を設置しましょう。
電動で便座が上下し、立ち上がるまでをサポートしれくれますので、自力でトイレを済ませることができます。
トイレの位置
一般的なトイレ室内は800mm×1800mm前後のサイズがほとんどですね。ところが介助者が必要な場合、1800mm×1800mmといった大きなトイレが必要になります。
その際、トイレの位置が重要となります。部屋の真ん中にトイレを設置してしまうと、左右に中途半端なスペースができて介助ができません。
このような場合、部屋の片方に寄せて設置し、介助スペースを広く取れるようにしましょう。
寝室との距離
年齢とともに、トイレの間隔は近くなり、夜中にトイレに立つことが増えます。足腰が弱ってくることも考えると、トイレと寝室は同じフロアに設置したほうがよいでしょう。
なるべく寝室から近くに配置すると、煩わしさを感じません。
寝室、トイレ、洗面所を並べて、寝室と洗面所どちらからもトイレに入れるといった間取りも便利ですね。
階段のバリアフリー
バリアフリーの観点からいえば、平屋住宅で階段のない家が理想です。
しかし、都市部などで広い土地の確保が難しい場合、現実的ではありませんよね。階段での移動が避けられない場合、安全に上り下りできるように配慮しましょう。
手すり
階段手すりは切れ目なく設置し、手すりを離すことなく上り下りできるようにします。曲がり階段の場合は、外側の壁に設置しましょう。
高さは階段の床の部分から750mmが基本とされています。
ただし、使う人の身長や手の長さによって最適な高さは変わります。手すりを使う人が決まっている場合は、その人にあわせた高さで設置しましょう。
玄関まわりのバリアフリー
玄関は段差が多く、靴を脱ぎ履きするなど必要な動作も多い場所です。転倒事故が起こりやすい場所ですので、意匠性だけでなく使いやすさも重視しましょう。
玄関ドアを引き戸にする
戸建て住宅の玄関で一番多いのは開きドアですが、車いすで開閉するのは大変です。外側から開けようとすると、ドアが自分にあたってしまうため足腰の弱い方でもふらついてしまい危険ですね。
引き戸にすることで、立ち位置を変えずに開けることができますので安定します。車いすに乗ったまま開けるのも楽ちんですね。
特に車いす利用を想定する場合、上吊りタイプの引き戸を選びましょう。地面にレールがないため、段差がなく車いすで出入りしやすくなります。
スロープで段差を解消する
廊下と玄関タイルの段差、玄関アプローチの階段など玄関周りは段差がたくさんあります。手すりを設置するのもいいですが、段差が多い場合はそれでも大変ですよね。
そのような場合は、スロープを設置するのがよいでしょう。転倒の危険が減りますし、車いすでの出入りも可能になります。
靴を履くために座れるようにする
若くて健康な方は玄関で立ったまま靴を脱ぎ履きするのは簡単ですが、足腰が弱ってくると難しくなります。ふらついて危険ですので、座って靴を履ける場所を作りましょう。
最近の廊下と玄関タイルの段差は200mm前後が一般的です。座るのには少し低いですから、400mm~500mmの高さにベンチスペースを作りましょう。
近くに手すりを設置すれば、立ち座りも快適に行えます。
廊下のバリアフリー
間取りを考えるとき、設備や部屋の広さばかりに目が行きがちです。
しかし、各部屋を移動するとき、廊下は必ず通ることになります。毎日のことを考え、転倒事故などが起きないように工夫しましょう。
手すり
基本的に、各部屋へ手すりを伝ったまま行けるように設置します。階段の項目でも述べましたが、高さは床から750mmが基本で、メインで使う人にあわせて調整します。
ドアの前など、手すりが途切れてしまう場所では、可動式の手すりを設置しましょう。使う時だけ倒して連続手すりになり、ドアを開けるときは跳ね上げて収納できます。
車椅子が通れる幅
自走用の車いすの幅は630mm前後です。ハンドル操作を考えると最低150mm程度の余裕が必要となります。
車いす利用の場合は、廊下幅は最低でも780mmということですね。
ただし、これは直進するだけの場合です。廊下が途中で曲がっている場合は、780mmの幅ではスムーズに通れません。
車いす操作の熟練度にもよりますが、850mm~900mmの幅が必要です。やむを得ず廊下に曲がりがあるときは、最低でも850mmの幅で設計しましょう。
夜に光るライト
常に電気が点いている居室と違い、廊下は使わないとき電気を消すことが多いですよね。面倒だからと、電気を付けないで移動してしまうと、何かにぶつかったり転倒したりする恐れがあります。
最近は人感センサーを搭載したライトが増えています。夜になり人を感知すると点灯して、いなくなると消えるため安全で消し忘れもありません。
コンセントに差して、足元だけを照らすライトもあります。夜にトイレに行くときもまぶしくないので、寝室からトイレへの動線に設置するのがおすすめです。
バリアフリーの注文住宅の事例・相場
ここからは、実際に建てられたバリアフリー住宅を紹介します。今まで紹介したポイントが、どのように取り入れられているのか注目してみてください。
かかった金額も掲載しますので、相場の目安にしてくださいね。
完全バリアフリーの家
工法構造 | 在来軸組工法木造2階建 |
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建築面積 | 69.56m2 / 21.04坪 |
延床面積 | 115..93m2 / 35.07坪 |
工事期間 | 5ヶ月 |
坪単価 | 80万円 |
本体価格 | 2750万円 |
建築地 | 東京都三鷹市 |
竣工年 | 2014年 |
車いす利用を想定した、完全バリアフリーの2階建て住宅です。玄関の段差は緩やかなスロープで車いすでも楽に登れそうですね。
玄関ドアは使いやすい引き戸で、車いすだけでなく誰でも使いやすい配置となっています。
間取り・イメージ
出典:https://www.hng.ne.jp/case_detail666-2.html
各部屋の間仕切りは上吊りのノンレールタイプになっており、車いすで通ってもガタつきません。開口部も幅広いものを使用して、ストレスなく行き来できます。
トイレ、洗面所スペースはとても広く、方向転換も簡単にできそうですね。
アイランド型のキッチンはカウンターの下が開口になっていて、車いすのまま使えるタイプです。広い作業スペースで、料理も配膳の準備もしやすそうですね。
家族を繋ぐバリアフリー
工法構造 | 在来工法 |
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建築面積 | 83.32m2 |
延床面積 | 136.32m2 |
段差解消のスロープが壁の裏に上手く隠されて、すっきりした外観のバリアフリー住宅ですね。玄関へのスロープはもちろん、ウッドデッキへもスロープがつながっています。
車いすのまま掃き出し窓からLDKに出入りすることができます。食材をたくさん買ったときなどに便利ですね。
内装・イメージ
玄関内も車いすのまま出入りできるように、緩やかなスロープが設けられています。廊下と玄関タイルの間に一段広いスペースがあり、いったん荷物を置くのに適していますね。
座って靴を履くのにもよさそうです。
広いLDKは、間仕切りなど障害物がなく自在に動き回ることができます。キッチン横の棚は車いすで使いやすい高さに設置されて、作業スペースとしても使いやすそうですね。
1,000万円代のバリアフリーの平屋
工法構造 | 在来軸組 平屋 |
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建築面積 | 98.54m2 / 29.80坪 |
延床面積 | 96.88m2 / 29.30坪 |
工事期間 | 3ヶ月 |
坪単価 | 40万円 |
本体価格 | 1,000万円台 |
建築地 | 滋賀県東近江市 |
竣工年 | 2016年 |
階段のない平屋住宅は、バリアフリーの観点から見てとても有利ですよね。広い土地が確保できる場合、積極的に検討しましょう。
階段の材料費が減る、足場が少なくすむ、など費用面でもメリットがあります。1,000万円台でバリアフリーの注文住宅が建つのはとても魅力的です。
内装・イメージ
出典:https://www.hng.ne.jp/case_detail676-5.html
上がり框(あがりかまち:玄関の段差のこと)の高さは低く抑えられて、出入りがしやすくなっています。幅広に設置された下駄箱は、手すり代わりに手をつくこともできますね。
各部屋との間仕切りはすべてフラットになっており、転んでしまう心配がありません。階段もありませんし、将来足腰が弱っても安心して住み続けることができそうです。
バリアフリーの失敗例
バリアフリーにこだわるあまり、逆に使いづらくなってしまったという例もあります。
失敗したからといって簡単に作り直せるものではありません。失敗例を3つ紹介しますので、参考にしてくださいね。
玄関をフラットにしすぎた
段差解消に力を入れるあまり、玄関周りを完全フラットにした例ですね。転倒の危険性はありませんが、デメリットも発生します。
玄関タイルは、靴についてきた汚れやホコリがたまりやすい場所ですよね。段差がないと、ホコリが廊下に入りやすくなります。
また、雨の日なども水分が室内に入りやすくなりますので、玄関マットでよくふき取るなど対策が必要ですね。
スペースが許すのであれば、スロープを設置して段差解消するほうが、普段の使い勝手はよいでしょう。
寝室の近くにトイレを設置すればよかった
夜中に起きてトイレに行くとき、寝ぼけた状態で長い廊下を移動するのはわずらわしいですよね。
寝室は2階、トイレは1階となると、階段の上り下りもあり、さらに大変で危険です。最低でも、トイレと寝室は同じフロアに設置し、可能な限り近くに配置するのがおすすめです。
こだわりすぎて値段が高くなった
注文住宅の価格はプランによって変わります。将来を心配するあまり、何から何までバリアフリー設備を設置して予算オーバー、ということも考えられます。
予算を削るために、駐車場を減らしてほかで借りる、なんてことになったら本末転倒ですよね。
転倒しやすい階段手すりは付けておいて、廊下は将来足腰が弱ったら付ける、といった計画も必要です。
そのような場合、家を建てるときに手すり設置用の下地だけ壁に入れておきましょう。後で手すりを付けるとき、工事費が少なく済みます。
まとめ
バリアフリー設備が必要になってから、お金を出してリフォームをするのは大変です。工事期間もかかりますし、費用も安くありません。大規模な工事になれば、仮住まいに移る必要もあります。
プランが自由な注文住宅なら、設計時にバリアフリー化しておけば工事期間はそれほど伸びません。費用も後からつけるより安く上がります。
少なくない金額をかけて建てるせっかくのわが家ですから、長く住みたいものです。将来のことを考えてバリアフリー住宅を建てておけば、年を重ねても快適に住み続けることができるので安心ですね。
住宅は一生に一度の高価な買い物です。数千万円単位になるため、できれば値段を安くしたいものです。
実は値段の高い注文住宅ですが、建売よりも安く家を建てられる方法があるってご存知ですか?
建売でもいいですが、せっかくであれば自由に仕様や間取りを選べる注文住宅がいいですよね。
ただ、注文住宅は失敗してしまう方がほとんどです。夢のマイホームで後悔したくないですよね。
※お断り自由・完全無料